夜景やコンサート会場でISO6400、12800まで上げて撮影すると、画面全体にざらついたノイズが目立つようになります。カメラのメニューで「高感度ノイズリダクション」を最大に設定すればノイズは抑えられますが、今度は髪の毛や葉っぱのような細部が水彩画のようにぼやけてしまう副作用が起こります。この両者のバランスを取るには、ノイズリダクション機能が実際に何をしているのかを理解し、カメラ設定だけに頼らず撮影段階からノイズを減らす方法を併せて知っておく必要があります。
カメラのノイズリダクションは実は2種類ある
カメラのメニューには通常「高感度ノイズリダクション(High ISO NR)」と「長秒時露光ノイズリダクション(Long Exposure NR)」という、名前は似ていても中身が全く異なる2つの機能が存在し、これらを同じものだと勘違いしているケースは少なくありません。高感度ノイズリダクションは、高ISOで発生するノイズ対信号比を抑えるためにJPEG生成時に空間的なスムージング(隣接ピクセルの平均化)を適用する機能で、RAWで撮影している場合はほとんどのカメラでカメラ内プレビューにのみ影響し、実際のRAWデータには適用されません(一部の機種ではRAWにも弱くかかる場合があるため、お使いの機種の仕様を確認しておくとよいでしょう)。一方、長秒時露光ノイズリダクションは全く異なる仕組みで、シャッターを閉じた後に同じ露光時間だけダークフレーム(暗黒画像)をもう1枚撮影し、センサー固有の熱ノイズパターンを差し引くという物理的な処理です。つまり一方は画像処理アルゴリズムであり、もう一方は物理的にもう1枚撮影する処理だという根本的な違いがあります。
長秒時露光ノイズリダクションをオンにすると撮影時間が2倍になる理由
長秒時露光ノイズリダクションがオンになっていると、30秒露光を撮影した後、カメラが自動的に30秒分のダークフレームを追加撮影するため、実際には1枚撮るのに合計60秒かかります。星の軌跡を記録する比較明合成(スタートレイル)撮影のように連続で数百枚を撮影して合成する場合、この機能をオンのままにしておくと露光の合間に軌跡の途切れが生じたり、全体の撮影時間が2倍に伸びてバッテリーと時間を無駄に消費してしまいます。逆に1枚で完結させる夜景写真であれば、数秒から数十秒の追加時間をかけてでもセンサーの熱ノイズ(特に長秒露光で目立つ明るい点状のホットピクセル)を確実に除去した方が有利な場合が多くあります。結論としては「連続撮影・比較明合成が目的ならオフ、1枚の完成度が目的ならオン」という基準で使い分けるのが実践的です。
実践シナリオ:都市の夜景をISO 3200、f/2.8、1/15秒で手持ち撮影する場合
三脚なしで都市の夜景を手持ちで撮影する状況で、f/2.8のレンズでISO 3200、シャッタースピード1/15秒を使うとします。このISO帯では多くのカメラがかなりのノイズを生み出しますが、ここでよくある失敗が絞りをさらに絞ったりISOをさらに上げたりして露出を合わせようとすることです。その代わりに、ヒストグラムをハイライト側に少し寄せる「露出を右に寄せる(ETTR)」撮影を行い、白飛びしないギリギリの明るさで撮影すれば、暗く撮った場合よりも信号対ノイズ比が改善され、現像時に明るさを落としたときにノイズが目立ちにくくなります。三脚が使える状況であれば、ISOを100~400程度まで下げてシャッタースピードを2~8秒に伸ばす方が根本的にノイズを抑える上でずっと効果的で、静止した建物や夜景であればこの方法でノイズをほとんど目立たないレベルまで抑えられます。
よくある失敗:現像時のノイズリダクションスライダーをとにかく最大に上げること
ライトルームやCapture Oneなどの現像ソフトで、ノイズリダクションのスライダーを何も考えずに最大値まで上げてしまうのもよくある失敗です。ノイズリダクションは大きく分けて輝度ノイズ(明るさのざらつき)とカラーノイズ(緑や紫の色ムラ)に分かれますが、カラーノイズリダクションは目立った副作用が出にくいのでかなり強めにかけても問題ない一方、輝度ノイズリダクションを過度に上げると微細なテクスチャ(肌の質感、葉、布の織り目)が溶けてプラスチックのようなのっぺりした印象になります。実践では、まずカラーノイズリダクションを十分に(だいたい25~50程度)かけた上で、輝度ノイズリダクションは等倍表示でディテールが残っているか確認しながら少しずつ上げ、ノイズが完全に消える直前、つまりわずかな粒状感が残る地点で止めるのが、ディテールとノイズのバランスを取る上で最も確実な方法です。
現像処理よりも強力な方法:複数枚を重ねて平均化する(スタッキング)
ノイズは基本的にランダムな信号であるため、同じ構図で複数枚を連続撮影して平均化すると、数学的にノイズが減少します。具体的には撮影枚数の平方根に比例してノイズが減り、例えば4枚を平均化するとノイズは理論上約2倍(平方根である√4=2)、9枚なら約3倍(√9=3)減少します。三脚に固定した状態で同じ露出設定のまま4~8枚を連続撮影し、Photoshopのスマートオブジェクトのスタックモード平均機能や、Starry Landscape Stackerのような専用ソフトで合成すれば、ISOを下げずにカメラ設定だけでは到達できないレベルまでノイズを抑えられます。ただし、この方法は雲が流れたり人が通り過ぎたりするような動きのあるシーンでは、半透明の残像(ゴースト)が発生しやすいため、比較的静止した夜景や風景に向いています。
チェックリスト
- 高感度ノイズリダクションは画像処理、長秒時露光ノイズリダクションはダークフレームをもう1枚撮影する処理という違いを理解しておきましょう。
- 比較明合成のような連続撮影・合成が目的なら長秒時露光ノイズリダクションをオフに、1枚の完成度が目的ならオンにしておくのが有利です。
- 手持ち撮影では露出を右に寄せて(ETTR)撮ることで、信号対ノイズ比を改善しましょう。
- 現像時はまずカラーノイズを十分に減らし、輝度ノイズはディテールが残る範囲で止めましょう。
- 静止したシーンなら三脚で複数枚を連続撮影して平均化するスタッキングで、カメラ設定だけでは得られないレベルまでノイズを抑えてみましょう。
