カメラバッグにフィルターを一枚だけ追加できるとしたら、多くの人がNDフィルターと偏光フィルター(PL/CPL)のどちらにするか迷います。どちらもレンズの前に装着して光をコントロールする点は同じですが、実際にしていることはまったく違います。NDフィルターは色を変えずに光の量を均一に減らすだけですが、PLフィルターは特定の角度で反射した光だけを選択的にカットし、色や被写体のコントラストそのものを変化させます。この違いを理解せずに選ぶと、思った効果が得られずに機材代だけがかかってしまいます。
NDフィルターが行うこと
ND(Neutral Density)フィルターはフレーム全体の光量を均一に落とします。3段(ND8)から10段(ND1000)、さらに強いものまであり、段数が上がるほど同じ明るさを保つためにシャッタースピードを長くする必要があります。目的の多くは、あえてシャッタースピードを長くして水面や雲、人の動きを滑らかにぼかすことです。
例えば晴天の日中にf/8、ISO100で撮影すると適正シャッタースピードはおよそ1/125秒になります。ここにND1000(10段)を装着すると、同じ明るさを保つためにシャッタースピードは約8秒まで延び、流れる川や滝は霧のように滑らかな質感に変わります。重要なのは、NDフィルターは反射や空のコントラストにはほとんど影響しないという点です。あくまで露出時間を調整するための道具です。
PLフィルターが行うこと
偏光フィルター(PL/CPL)は光の量を減らすのではなく、特定方向に振動する反射光だけを遮断します。水面やガラス、濡れた葉の表面など非金属面で反射する光は特定の角度で偏光しており、PLフィルターを回転させてこの偏光方向を遮ると、邪魔だった反射が消え、その下にある本来の色(水中の岩や葉の緑)が現れます。
空の描写にも効果が顕著に現れます。太陽に対しておよそ90度の角度(横方向)で撮影すると、青空はより濃く、白い雲とのコントラストがはっきりします。ただし太陽を正面や背にして撮ると効果はほとんど現れません。そのため超広角やフィッシュアイレンズで広い空を写すと、フレーム内で空の明るさが不均一になる「ムラ(バンディング)」が発生することがあります。PLフィルターは副次的に光量も1~2段ほど落としますが、これはあくまで偏光ガラスの副作用であり、本来の目的ではありません。
実際のシーンで比較する
同じ被写体でも、求める結果によって選ぶべきフィルターはまったく異なります。
滝や川をシルクのように滑らかにぼかしたいならNDフィルターの出番です。f/11、ISO100の晴天でベースのシャッタースピードが1/60秒だとすると、NDフィルターなしでは絞りをどれだけ絞っても数秒単位の露出は作れません。6段NDならおよそ1秒、10段なら15秒前後まで延び、水の質感が完全に変わります。
湖面の下の岩や魚をくっきり写したいならPLフィルターが必要です。NDフィルターをどれだけ強くしても水面の反射そのものは消えず、露出時間が延びて手ブレのリスクが増すだけです。PLフィルターを回転させて反射角を調整することでしか、水面下は見えてきません。
紅葉や森の撮影でもPLフィルターが役立ちます。濡れた葉の表面の反射を取り除くと、葉本来の彩度がはっきりと蘇りますが、これはNDフィルターでは得られない効果です。
併用時の注意点
可変NDフィルターとPLフィルターを重ねたり、PL機能内蔵の可変NDを使うケースも多くあります。ここでよくある失敗は、広角レンズ(おおむね16mm以下)では偏光効果がフレーム全体に均一にかからないという点を見落とすことです。広角で広い空を写すと、フレームの片側は偏光が強くかかり、反対側はほとんどかからず、空の色に不自然なムラが出てしまいます。このような場合はPLフィルターを外し、反射除去がどうしても必要なシーンだけ別途PLフィルターを使う方が無難です。
また、フィルターを2枚重ねると厚みが増し、広角レンズではケラレ(周辺減光)が発生しやすくなります。薄枠(スリムフレーム)のフィルターを使うか、撮影後にトリミングでケラレ部分を除去するのも一つの方法です。
実践チェックリスト
- 動く水・雲・人を滑らかにぼかしたい → NDフィルター
- 水・ガラス・葉の反射を消してその下の色を出したい → PLフィルター
- 青空のコントラストを強調したい → PLフィルター(ただし太陽の方向で効果が変わる点に注意)
- 広角レンズで空全体を写す場合は、事前にPLフィルターのムラを確認しておく
- ND・PLを重ねて使う予定なら、薄枠フィルターでケラレを最小限にする
- PLフィルターは必ず回転させながらライブビューやファインダーで効果を確認してから撮影する
