ほとんどの被写界深度計算機(当サイトの計算機を含む)が使っている標準的な被写界深度の理論は、撮影距離が焦点距離よりもはるかに大きいという前提に立っています。風景、ポートレート、スナップ写真のほぼすべてがこの前提に当てはまります。しかし、マクロ撮影の被写界深度がすでに数ミリ単位まで浅くなっている等倍に近い倍率では、この前提そのものが崩れます。この領域で標準の計算機が示す数値は、単に不正確というだけでなく、そもそもその公式が想定している状況自体がもはや成り立っていないのです。
標準の被写界深度は距離、マクロの被写界深度は倍率で決まる
一般的な被写界深度の公式は、焦点距離・絞り・許容錯乱円・撮影距離を変数とします。マクロ撮影では撮影距離がわずか数センチで倍率が等倍前後になるため、被写界深度は距離よりも倍率と絞りで説明したほうがはるかに正確です。焦点距離が大きく異なる2本のレンズでも、同じ倍率・同じ絞りに合わせればほぼ同じ被写界深度になりますが、これは距離ベースの標準公式ではうまく説明できない現象です。
前後の被写界深度の比率が逆転する
通常撮影では被写界深度は非対称で、ピント位置の手前に約3分の1、奥に約3分の2が分布します。ハイパーフォーカルディスタンスの手法が成立するのも、この非対称性のおかげです。無限遠より少し手前にピントを合わせても、遠くの被写体まで鮮明に写るのはそのためです。等倍に近づくと、この非対称性は消え、被写界深度はピント位置の前後にほぼ半分ずつ分布するようになります。風景撮影で身につけた「手前から3分の1の位置にピント」という習慣を、そのままマクロに当てはめても通常距離ほどの効果は期待できません。
実際にどれほど浅くなるのか
等倍では、f/11程度まで絞ってもレンズによっては全体の被写界深度が1ミリに満たないことが多く、0.5ミリ近くになることもあります。昆虫の目にはピントが合っているのに、わずか数ミリ離れた触角がすでにボケて見えるのはこのためです。絞りをどれだけ慎重に選んでも同じです。絞りをさらに絞れば被写界深度は多少広がりますが、マクロでは回折限界がずっと早く訪れることを考えると、絞りだけで広げられる被写界深度には明確な限界があります。
等倍付近では標準の被写界深度計算機の代わりに何を見るべきか
ハイパーフォーカル前提の標準的な被写界深度の数値が等倍付近ではもはや信頼できないなら、マクロ撮影を計画する際は距離の代わりに倍率と絞りを直接の基準にするほうが有用です。同じ倍率であれば、全体の被写界深度はおおよそ絞り値に比例して広がります(例:f/8からf/16に絞ると被写界深度はおよそ2倍)。ただし同時に実効絞りも回折領域に深く入り込む点を考慮する必要があります。距離ベースの計算機に頼るより、被写体に必要なピント面の数をまず判断し、1枚の薄いピント面で十分か、それともその深さをカバーできるコマ数のフォーカススタッキングを計画するかを決めるのが一般的です。
チェックリスト
- 標準の被写界深度の公式は撮影距離が焦点距離よりはるかに大きいことを前提としており、等倍付近ではこの前提が崩れます。
- マクロの被写界深度は撮影距離や焦点距離より、倍率と絞りに大きく左右されます。
- 通常距離で通用する「手前3分の1・奥3分の2」の被写界深度配分は、等倍付近ではほぼ半分ずつに変わります。
- 等倍では、かなり絞り込んでも全体の被写界深度が1ミリ未満になることがよくあります。
- 1枚で必要な被写界深度をカバーできない場合は、標準の被写界深度計算機の数値に頼るよりフォーカススタッキングを計画しましょう。
