ExifLens
← ガイド一覧に戻る

マクロ撮影と回折:同じ絞り値なのになぜもっと早くボケてしまうのか

執筆 · 2026年9月28日 · 3分で読めます

露の付いたピンク色のタンポポの綿毛を赤い背景で撮ったマクロ写真
Photo by mario jr nicorelli on Unsplash

絞りを絞りすぎると写真がボケる理由 をお読みいただいた方なら、回折が絞りをどこまで絞れるかの実質的な限界を作っていることをご存知でしょう。マクロ撮影では、この限界がずっと早く訪れます。同じレンズでも、遠くの被写体を撮るときより2〜3段も早く回折の影響が現れることが珍しくありません。絞りリングの数値は変わっていないのに、実際に光が通過する実効絞りは変化しているからです。

実効絞り:リングの数値がすべてではない

レンズが近距離にピントを合わせるほど、特に等倍(1:1)に近づくほど、後玉とセンサーの間の距離が伸びます。一部のマクロレンズが近接撮影時に鏡筒が伸びるのと同じ原理です。この伸びた分だけセンサーに届く光の円錐が実質的に狭くなるため、絞りは表示された数値よりも実際にはさらに絞られたように振る舞います。おおよそ「実効F値 = 表示F値 ×(1+倍率)」と近似できます。等倍撮影でf/8に設定したレンズは、絞りリングを一切触っていなくても、回折の観点ではf/16に近い振る舞いをします。

なぜこれほど回折限界が早まるのか

回折によるボケは、レンズに表示された数値ではなく、センサーの画素ピッチに対する実際の絞り開口の大きさで決まります。等倍では実効絞りがおよそ2倍狭くなるため、通常の撮影距離ではf/11付近で現れるはずの回折限界が、本格的なマクロ撮影ではf/5.6〜f/8付近ですでに現れてしまいます。ポートレート距離では完璧にシャープだった絞り値でも、被写体からわずか数センチのマクロ撮影では、同じ表示絞り値で目に見えて甘くなることがあります。

実例:等倍マクロでf/11がボケてしまう理由

昆虫を等倍に近い倍率で撮影する際、習慣的にf/11やf/16を選び、風景撮影と同じようなシャープな結果を期待することがよくあります。しかし手ブレやピント外しではなく、その倍率での実効絞りがすでに回折領域の奥深くに入っているために、結果は予想より甘くなります。解決策は絞りを開けることではありません。等倍では被写界深度がすでに極端に浅く、ある程度絞る必要があるからです。むしろ、マクロにおける絞りは通常距離とは別の基準で判断すべきだと理解することが重要です。

よくある誤解:通常距離の感覚でマクロのシャープネスを判断する

普段f/5.6〜f/8付近でレンズが最もシャープだという感覚に慣れている撮影者は、その感覚をそのままマクロ撮影に持ち込み、マクロでは同じf/8がポートレートのときより甘く見えることに戸惑うことがあります。捨てるべき習慣は、表示F値を固定的なシャープネスの基準として扱うことです。マクロでは設定絞り値と実効絞り値の差が十分に大きいため、「最もシャープな絞り」の感覚を近接撮影距離用に改めて身につける必要があります。

対策:絞りを絞るよりコマ数を増やす

被写界深度を稼ごうとさらに絞り込むと、実効絞りが回折領域にさらに深く入り込むだけです。より効果的な方法はフォーカススタッキングです。レンズが最もシャープに解像する絞り値で撮影し、不足する被写界深度はコマ数を増やして補います。こうすることで、無理に絞って被写界深度を確保しようとして画質そのものが崩れる代わりに、実効絞りを回折による損失が少ない範囲に保つことができます。

チェックリスト

  • 「実効F値 ≒ 表示F値 ×(1+倍率)」を覚えておきましょう。等倍ではf/8がf/16に近い振る舞いをします。
  • 本格的なマクロ撮影では、通常の撮影距離より回折限界が明らかに早く訪れることを想定しましょう。
  • 「f/5.6〜f/8が最もシャープ」という通常距離の感覚を、そのままマクロに当てはめないようにしましょう。
  • より深い被写界深度が必要なときは、絞りをさらに絞るよりフォーカススタッキングを優先しましょう。
  • マクロ写真全体が甘く見えるときは、レンズのせいにする前に実効絞りを疑ってみましょう。